教えてください!家族承継って何ですか?|「家族承継」の専門家に聞いてみました(第2回/全5回)
株式会社こころみは、株式会社Kamakura Kazokuと提携させていただいております。
株式会社Kamakura Kazokuは、家族視点の事業承継「家族承継」専門の会社です。対話を通じて経営者と経営者家族をつなぎ、本音で話せるような場を提供し、創業者の志を次世代に継承させるサポートを行っています。
こころみが提供しているインタビュー社史作成サービス『創業の雑誌』が、家族承継を行う上で大切なツールとなるということから提携に至りました。そんな「家族承継」の専門家である株式会社Kamakura Kazokuの関尚子さん、関清一郎さんに事業承継のひとつである「家族承継」、『創業の雑誌』が「家族承継」に果たせる役割などをお伺いしてみました。
<目次>教えてください!家族承継って何ですか?|「家族承継」の専門家に聞いてみました
第1回:ファミリービジネスには対話が足りていない?
第2回:原体験を言葉として残せる社史作成サービス『創業の雑誌』(←今回はココ)
第3回:ファミリーチームとビジネスチームをつなぐ家族憲章
第4回:事業承継は、早ければ早いほどいい
第5回:Kamakura Kazokuが目指すもの
――『創業の雑誌』をいつ頃ご存じになりましたか?
清一郎 初めて見たのは令和元年に発行された雑誌でした。読んでみて「すごいものがある」これは世の中に広げなきゃいけないと思いました。
僕は、特に「あなたの考える幸せは」という特集ページが大好きです。お子さんに対する思いが詳細に載っていて、初めて読んだとき涙が出ました。また「妻が人生の右腕的存在です」という言葉が書かれていましたが、この一言が家族に伝わっているだけで、家族の承継って変わってきます。今の家族承継にはそこがまったく足りてないんです。
尚子 伝わっていなと、「仕事はあなたが勝手にやってるんでしょう!」ってなりますからね。
―― 足りていない原因は何だと思われますか?
清一郎 まずは、既存のプレイヤー(M&A仲介会社)が対話を重視していないこと。では何を重視しているかというと、株主の視点です。事業価値や株主価値がどれだけ増え、いくら儲かるか、とかですね。もう1つ、経営者の多忙が理由としてあると思います。日々出てくる最新技術に追いつかないといけない。
業務以外では、介護もあげられます。私も介護離職をしましたが、経営者が自分の親の介護をしていたり、社員のご家族の介護の相談に乗っていたりすることもあります。その結果、自分の子どもたちや配偶者の話を聞く時間がない。つまり、対話が生まれてない状況が発生するわけですね。
尚子 経営者の方って、社員さんに「何かあったら、24時間、365日相談してきていいよ」とおっしゃる方が多いです。そうすると自分の家族はどうしても後回しになってしまう。私の父も会社を経営していましたが、やっぱりそうでした。ずっと外で働いて家で話す時間もない。なんのために仕事をやっているのか、家族が理解できていないと「あなたは好きで仕事をやっているんでしょ」と思いますよね。
そこの共通理解がないと、M&Aをしてお金が入ってきたときに、じゃあもう按分して別れましょう、みたいなことになってしまうんです。
清一郎 事業承継が終わったあとの離婚は多いですね。原因としては、核家族という家族形態もあるのかもしれません。昔は祖父母のようなある程度時間のある方が、「お父さんお母さんはこんなふうにがんばっているんだよ」と家族に伝えていたのが、家の中の人数が少なくなってきて、みんな忙しくしている。余裕がある人が家にいないから、伝わらなくなってきています。
だから『創業の雑誌』のように、文章と写真で、いつでも家族が振り返れるツールっていうのはすごく素敵だと思います。これを読めば、「ああ、こういう思いで、家族のためにやってきた」っていうのがわかるじゃないですか。
今支援させていただいている会社さんがありますが、そこの社長は社員のことを「家族」だとおっしゃるのですよ。クリスマスには、サンタの服を着て、社員にクリスマスプレゼントを渡しに行かれるそうなんです。その幸せそうなクリスマスの写真が会社に貼ってあるんですが、それを見たとき、僕は泣いてしまいました。もしかして、社長は自分の子どもたちにプレゼントを渡せているのかなと思って。聞いてみると、やはり渡せていないとおっしゃっていましたね。人間愛に満ちた方なのです。でも会社愛と、家族愛の間で板挟みになられているんじゃないかな。会社のナンバー2からは「家族と旅行に行く暇があったら会社のことみてくださいよ」というようなことを言われ、パートナーである奥様からは「なんで会社の経営幹部とばっかり過ごしてるの」とね。社長としては、「俺も必死なのだよ」という思いなんじゃないでしょうか。
でも、創業者の思いを大切にして次世代や家族に伝えられていれば、そんな綱引きすることなく、一緒に力を合わせることができると思うのです。ファミリーチームとビジネスチームが互いに貢献していける。100年200年と続く会社は、創業者の思いやファミリーの理念というものを大切にしていますから。
――創業者の理念を表すのに『創業の雑誌』が活用できるということでしょうか?
清一郎 そうです。僕が前職でお世話になった方に、早稲田大学院の米田先生という方がいらっしゃいます。その方は、有名企業のファミリーオフィスの番頭を経験され、ファミリービジネス研究の世界トップクラスの大学との関わりもあります。その米田先生がセミナーでおっしゃっていたことが、まさに『創業の雑誌』につながるのです。
尚子 創業者の考えを整理するということなのですが、米田先生は「一族理念の明確化」という言い方をされていらっしゃったかと思います。他にも、「創業者が築いた事業から得る有形無形の恩恵を理解することが重要」だと。理解しないままその恩恵の価値を失ったとき、一族にどんな影響が出るのかという話ですね。
ファミリービジネスがうまくいっているとき、そういうものは必要ありません。でも危機を迎えたときに、一族理念や『創業の雑誌』のようなものが必要になるのです。それを読めば、立ち返ることができますから。
清一郎 原点ですよね。米田先生は、「一族理念を明確化すれば、無形資産の整理を積極的に行うことができて、それによって次世代の承継というのが可能になる」とおっしゃっていました。そのためのツールとして行き着くのが、『創業の雑誌』なんですよ。創業者が亡くなってしまったら遺品から、ということになりますが、お元気であれば、『創業の雑誌』のようなものを作って、創業者が発した言葉や行動、どういう人だったのかを言葉として残しておく。
尚子 『創業の雑誌』が創業者の言葉を分類して整理するものだとすれば、それをもとにディスカッションしていくのがkamakura kazokuだと思います。さらに、次につないでいくための理念を検討していくのが非営利型株式会社Daidaiになる、というところでしょうか。
清一郎 例えば、経営者や創業者が大切にしていた写真なんていうのは、たいてい亡くなられた後にでてきます。でも、写真だけを見ても、由来も写っている人もわからない。推測しかできないわけです。けれど『創業の雑誌』のようなものを作っておけば、これはお母さんで、これは創業者で、っていうのがわかるわけですよね。あと、僕が特に『創業の雑誌』でいいなと思ったのは、原体験がわかるところです。
――原体験ですか?
清一郎 読ませていただいた雑誌に、創業者の方が幼少期にお母様を亡くされた、と書いてありました。その会社さんは、家族の幸せを大事にする企業ですが、この早くにお母様を失ってしまったというのが原体験だと思うのです。早くに大切な人を喪失した創業者が、自分の苦しかった思いを次世代には残したくない、という気持ちで会社と家族とともに人生を営んでおられる。それであれば、その原体験は次世代に残すべき言葉なのかな、と思います。
尚子 Daidaiの講師には、大戸屋ホールディングスの三森智仁さんもいらっしゃるのですが、この方も、お父様(三森久実さん)と対話されるようになったのは、お父様の末期癌がわかってからだっておっしゃっていました。さらに、久実さんが亡くなられたあとお財布の中から一枚の写真が出てきたそうです。それが、久実さんの実のご両親の写真だったそうです。久実さんは実のご両親と離れて育ったのですが、その写真をずっとずっと大事に持っていたということを、亡くなられたあとに周囲は知った。
きっとお父様のルーツを大事にする思いっていうのが、大戸屋の理念に通じているのだと思います。
清一郎 大戸屋に行くと、「母さん、おなかすいたよ」っていうのが書いてあるのですね。お母さん学という共通理念や、女性が入りやすい定食屋さんにしよう、というスローガンがある。その根っこにあるのは、実の両親と離れて暮らした原体験じゃないかと思うのです。息子の智仁さんは、亡くなる前にもっと話ができたらよかったとおっしゃっていました。
こうした話はけっこうあります。僕たちは、創業者の理念や思いを創業者が遺した言葉から抽出して、一族の理念を明確化します。そして、家族憲章というドキュメントに残します。ですが、その手前で『創業の雑誌』のようなものが出来上がっていると、すごく話が進みやすいのです。
第3回に続く(3月24日配信予定)
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■プロフィール
関尚子(せきなおこ):株式会社kamakura kazoku代表取締役CEO
神奈川県出身。2004年明治大学政治経済学部卒業。同年横浜銀行入行。 綱島、日吉、本店営業部などに所属し、家族向け相談業務に10年携わる。 育児3人介護2人に向き合うため、退職。家族か仕事ではなく、すべてを一体化できるような生き方をしたい、 また、元経営者の一人娘としての原体験を形にしたいと家族で対話を重ね、起業を決意。神奈川県の起業家創出拠点HATSU鎌倉の起業支援プログラムに採択され、2020年12月夫婦で起業。
関清一郎(せきせいいちろう):株式会社kamakura kazoku代表取締役CHO
広島県出身。2006年横浜国立大学経営学部卒業。同年横浜銀行入行。税理士法人山田&パートナーズ出向を経て、2016年青山財産ネットワークスに入社。日本M&Aセンターとの合弁会社事業承継ナビゲーターにて、事業承継後の経営者・家族向け相談業務の責任者を務める。
一般社団法人金融財政事情研究会が、 株式会社日本M&Aセンターおよび株式会社きんざいと創設した認定制度「事業承継シニアエキスパート認定資格」の講師やファシリテーターとしても活躍する。
投稿日:2023年05月17日