創業の雑誌ブログ

教えてください!家族承継って何ですか?|「家族承継」の専門家に聞いてみました(第1回/全5回)

株式会社こころみは、株式会社Kamakura Kazokuと提携させていただいております。
株式会社Kamakura Kazokuは、家族視点の事業承継「家族承継」専門の会社です。対話を通じて経営者と経営者家族をつなぎ、本音で話せるような場を提供し、創業者の志を次世代に継承させるサポートを行っています。
こころみが提供しているインタビュー社史作成サービス『創業の雑誌』が、家族承継を行う上で大切なツールとなるということから提携に至りました。そんな「家族承継」の専門家である株式会社Kamakura Kazokuの関尚子さん、関清一郎さんに事業承継のひとつである「家族承継」、『創業の雑誌』が「家族承継」に果たせる役割などをお伺いしてみました。

<目次>教えてください!家族承継って何ですか?|「家族承継」の専門家に聞いてみました
第1回:ファミリービジネスには対話が足りていない?(←今回はココ)
第2回:原体験を言葉として残せる社史作成サービス『創業の雑誌』
第3回:ファミリーチームとビジネスチームをつなぐ家族憲章
第4回:事業承継は、早ければ早いほどいい
第5回:Kamakura Kazokuが目指すもの

――kamakura kazokuさんのことを教えてください

尚子 kamakuraka kazokuは、事業承継のプロセスを対話で支援している会社です。事業承継のひとつである家族承継の現場では、経営者とその家族間で情報の共有がなされていないことが多 いのです。そこで、経営者と後継者や、経営者と経営者のパートナーと、われわれ夫婦との2on2ミーティング、一族の連帯感や一体感を高めるためのファミリーミーティングのファシリテーションなどを行っています。さらに、ファミリーコーチングといったサポートも適宜させていただいていますね。

清一郎 ファミリービジネスには、ファミリーチーム、ビジネスチーム、オーナーシップチームの3つのチームがあります。これをスリーサークルと呼んでいます。既存のM&A仲介会社さんだと、オーナーシップチームとビジネスチームしか見ないことが多いです。家族のことは家族で話してくださいって言われてしまう。結果、家族がファミリービジネスや事業承継のことを理解していないまま承継が終ってしまうことがたびたび起こります。

承継がM&Aという形で行われた場合、有機質であった会社の創業理念や創業者の思いが無機質の現金となって家族のもとに届けられ、それが原因で家族がバラバラになってしまう。前職でそういう現状を頻繁に見てきました。それで「これは対話が足りないのではないか?」という仮説を立てて、2020年12月に起業しました。さらにファミリービジネスの研究を行っている方々と連携して、仮説が正しいのかを現場と理論を往復しながらチェックしている、という状況です。

――「対話が足りない」という部分をもう少し具体的にお聞きできますか?

清一郎 先ほどファミリーチームとビジネスチーム、オーナーシップチームのスリーサークルの話をしましたが、その中心にいらっしゃるのが創業者です。承継の際、創業者は、M&A仲介会社や、顧問税理士、金融機関との対話は足りています。毎日のように経営会議を行い、話しているわけですから。でも、配偶者や会社のナンバー2に対して承継のことをお話される創業者さんや現社長さんって、ほとんどいらっしゃらない。M&A仲介会社の場合、秘密保持という名のもとに、家族や会社のナンバー2には承継の話はしないでください、とお願いしてしまうのですよ。いろいろなところに相談してしまうと承継が遅れてしまって、今だったら5億円で売れるのが3億円でしか売れなくなるかもしれませんよ、となるわけです。

M&Aを終えてから、他の企業で働いていた息子さんから「僕が継ぎたかったのに」と言われたというケースもありました。他にも、「事業承継の結果、創業者の思いや理念が無機質な現金に変わってしまって、事業と家族がバラバラになってしまった」とおっしゃっていた元経営者の方もいらっしゃいました。こういったケースは、珍しくありません。対話が足りないために、そういうボタンの掛け違いが起きると思った次第です。

――起業するきっかけは、「対話が足りない」という仮説の他になにかありましたか?

尚子 私が介護と子育てで、普通の勤め人の働き方ができなくなったことが大きなきっかけですね。なぜkamakura kazokuのような事業を始めたかというと、夫とある話をしたことがスタートになると思います。当時夫は、M&A後のオーナーの資産管理や資産運用を担当する仕事をしていました。それで、お金は入ってくるのになぜかお客さんが幸せになっていないという悩みを抱えていました。その話を聞いたときに、「私もそれ、すごくよくわかる!」と思ったわけです。

というのも、私の父が会社を経営していて、その後倒産したという経験があるからです。父が会社を経営していたころ、父から家族へのフィードバックが全くなく、対話もありませんでした。その後、事業がうまくいかなくなったときに、父が自分の保険金でなんとかしようと1週間くらい帰ってこなかった時期がありました。結果、帰ってきてくれましたが、そのときの「なんのために家族がいたんだろう」「家族にも何かできたのではないか」というもやもやは、ずっと残っていました。それが、夫への共感につながったんです。家族だって多忙な経営者のために何かしてあげたいっていう気持ちを持っているんですよ。
経営者と家族の間に情報が共有されていないだけで、こんなにも不幸になるのであれば、対話を通じて経営者と家族をつなぐ仕事がしたいと思い創業に至りました。

清一郎 私は仕事で家族がバラバラになっていくのを見ていて、彼女は彼女で、家族として原体験を持っていた。じゃあちょっとチャレンジしてみようか、となりました。内側と外側の視点、それが合致したのが一番の動機です。

――お2人が現場で工夫されていることはありますか?

清一郎 現場でやっていて手応えを感じるのは、われわれ夫婦と、社長ご夫婦で面談する2on2の手法です。他でやっているところはほとんどないと思います。そもそも女性と男性が2人ずつでミーティングに臨むというのも少ないんですよ。

――なぜ、そういった手法をとられているのでしょうか?

清一郎 私は前職でもファミリーミーティングをやっていました。当時は私と社長ご夫婦という1on2でした。ミーティングの最後に、奥様に「何かご質問ありますか?」って聞くわけです。そうすると、「特にないです」とおっしゃるわけです。でも、顔にはあるって書いてあるんですよね。とはいえ、ないとおっしゃるので、「わかりました。今日もありがとうございました」って会議室から出ると、呼び止められるんです。「関さん、ちょっといいですか。さっきの件、納得できない」と。

1on2の会議室では、経営者のパートナーの方には、心理的安全性がないと思いました。だって社長とツーカーのコンサルみたいな男が来て、ファシリテーションをして帰っていくわけですから。ともすると、旦那さんが連れてきた顧問税理士の仲間でしょ。どうせ私の思ったことを言ったって、あなたにはわからないでしょう、っていうことだったと思います。

だからパートナーの方は、ミーティングが終わったあと、ビジネスモードの私ではなくて、1人の人間の私に語りかけてくるんです。「あなた、さっきの話を聞いていて、人としてどう思った?」とね。そういうときのご指摘って、本当におっしゃる通り、本質を突いたケースがほとんどです。だから「もう1回プランを練り直した方がいいと思います」となったり、そういうことが何回もあるんですよね。これは自分だけじゃ無理だなと思っていたんです。

それが、こちらも夫婦で参加してみたら、社長の奥様が「言っていいかしら」とミーティング中に発言してくれるように変わったのです。「尚子さん、ちょっと聞いてくれる? この人たちにはわからないでしょうけど」って言われるので、「あ、じゃあ僕ちょっと耳栓しています」って。

尚子 夫婦で同席することで、それぞれの立場を理解できるメリットはあると思います。お話はしていただきやすいでしょうね。

清一郎 本当は、男性、女性っていうくくりも好きじゃないし、1人の人間として対話できる時代になってほしいとは思いますけどね。

尚子 そこはまだまだですね。

清一郎 そういう部分は、僕も含めて、社会の中で変えていかないといけない部分だと思います。
いずれにしても、2on2はいいですね。奥様同士ということで話しやすい空気になるのはもちろんですが、社長の奥様が、「関さん、ちゃんと子育てしなきゃだめよ」って僕に言いながら、実は隣にいる社長に伝えている場面もありました。

尚子 投影していただいているわけですよね。配偶者に直接話すと感情的になってしまうので、私たちに向かって発することによって感情を逃がすというか。

清一郎 そう、僕たちは投影相手です。コーチングでは、向き合うな、同じ方向を見ろといいますが、同じことなんだと思います。私に感情をぶつけていただくことで、場もなごみますからね。

僕たち夫婦みたいに、理念を共有して一緒に働いていても、けんかをすることがあります。恥ずかしながら僕らも試行錯誤の毎日です。そんなところをお客様に見せながら、共に対話をしていきたいと思っています。

――非営利型株式会社Daidaiでも活動されていますが。

清一郎 kamakura kazokuが事業承継のプロセスを『対話』で支援する会社、非営利型株式会社(※)Daidaiは、『学び』と『仲間』で支援する会社です。今の事業承継とファミリービジネスに足りないのは、『対話』と『学び』と『仲間』だと思います。Kamakura kazokuとDaidaiはこれらを提供する会社ですね。Daidaiがフロントとして『学び』と『仲間』を提供し、kamakura kazokuが『対話』を促進する役割を担っています。
(※)非営利型株式会社とは、主に社会的・公益的な目的を追求し、その目的のために事業活動を行う企業形態のこと。営利目的を持つ企業とは異なり、その活動の収益を株主や経営者の利益として分配することはありません。また、非営利型株式会社が収益を上げた場合でも、その収益は主に事業の運営や目的の達成に投資されます。

尚子 『学び』と『仲間』に関しては、会社を超えてやっています。承継について同じような悩みを持つ人たちが、会社を超えて仲間となり、共に学んで場を提供しています。

清一郎 経営者同士が集まる場は世の中にけっこうあるのですが、経営者の家族や後継者が集まるコミュニティーってほとんどないんですよ。

尚子 最近増えてきましたけどね。例えば、大阪を中心にベンチャー型事業承継っていうコミュニテイーが広がっています。でも、ここも後継者のみだったりします。家族が入れない。そういうところに、課題感を持っています。

清一郎 親子や夫婦で学べる場所がない。それで作ったのがDaidaiです。そこで『学び』と『仲間』を構築したあとに、kamakura kazokuで『対話』を支援できればと考えています。

――『対話』、『学び』、『仲間』を通して得ることとは?

清一郎 Daidaiのコミュニティーでは、いくつかの会社の経営者や後継者が集まって合宿のようなこともしています。語り合う場では、ファシリテーターも交えて話をします。そうすると、語る方だけではなくて、聞く方にも学びがあるんです。

ある経営者の方は、別の会社の後継者の相談に4時間くらいのって、「このやりとりを通じてたくさん気づきがもらえました」とおっしゃっていただいたりします。

尚子 すごくいい顔をされる方が多いのです。

清一郎 普段はクールな方から、「すごくよかったです。本当にありがとうございました」っていう熱いメールを合宿後にいただいたことがあります。ちょっと、うるっときちゃいましたね。こういう学びのプロセス自体に価値があると思っているんです。『創業の雑誌』を作り、対話をして、学びを得ていく。対話と内省を繰り返して、いかに自分の中に腹落ちさせるかが大切です。そうすれば、価値観がぶれなくなりますから。

尚子 価値観がぶれなくなれば、判断も速くなりますね。

清一郎 そうです。人生の判断も、ファミリーチームの判断も、ビジネスチームの判断も、とっても楽になると思います。けっきょく、ぶれたり迷ったりすることが、承継においてもファミリービジネスにおいても、失敗する一因です。ぶれない、迷わない判断軸を持てるようになるために対話で支援するというプロセスをお客様にご提供しています。

 

第2回へ続く(5月17日配信予定)

■プロフィール

関尚子(せきなおこ:株式会社kamakura kazoku代表取締役CEO

神奈川県出身。2004年明治大学政治経済学部卒業。同年横浜銀行入行。 綱島、日吉、本店営業部などに所属し、家族向け相談業務に10年携わる。 育児3人介護2人に向き合うため、退職。家族か仕事ではなく、すべてを一体化できるような生き方をしたい、 また、元経営者の一人娘としての原体験を形にしたいと家族で対話を重ね、起業を決意。神奈川県の起業家創出拠点HATSU鎌倉の起業支援プログラムに採択され、2020年12月夫婦で起業。

 

関清一郎(せきせいいちろう):株式会社kamakura kazoku代表取締役CHO

広島県出身。2006年横浜国立大学経営学部卒業。同年横浜銀行入行。税理士法人山田&パートナーズ出向を経て、2016年青山財産ネットワークスに入社。日本M&Aセンターとの合弁会社事業承継ナビゲーターにて、事業承継後の経営者・家族向け相談業務の責任者を務める。
一般社団法人金融財政事情研究会が、 株式会社日本M&Aセンターおよび株式会社きんざいと創設した認定制度「事業承継シニアエキスパート認定資格」の講師やファシリテーターとしても活躍する。

投稿日:2023年05月10日