聞くは究極 家族と事業承継の現場に向き合う| スリーナインコンサルティング代表・青山誠さんとこころみ代表・神山晃男の対談【第5回/全5回】
スリーナインコンサルティング株式会社は『聞く』ことで、人に寄り添い、家族や事業承継のサポートを行っている会社です。
一方、こころみが提供している社史作成サービス『創業の雑誌』では創業者へインタビューを行い原稿を作成します。インタビューでは創業者の生い立ち、学生時代、起業に至った経緯などもお伺いします。創業者の生い立ちが会社の価値観にも色濃く反映されると考えているためです。創業者、会社の価値観を引き出すために、私たちは『聞く』ことに重きを置いています。
『聞く』を事業のメインに据える、スリーナインコンサルティングの青山さんとこころみの神山が『聞く』について語りあいます。第5回、聞くことは共有することです。
※2人のプロフィールは文末をご覧ください。
目次
<聞くは究極 家族と事業承継の現場に向き合う>
1回目:血はつながらないけれど、家族と向き合う存在 公開中
2回目:家族の力を信じる 公開中
3回目:価値観を知るために聞く 公開中
4回目:事業承継に第三の家族が介在する意義 公開中
5回目:聞くことは共有すること←今回はここ
■自身の体験を伝える
青山 少し前に、24年間経営してきた司法書士事務所をM&Aで譲渡しました。その時、創業したら同時に事業承継も考えるべきだと思ったんです。創りながら譲渡方法まで考えると、会社の価値観も同時に考えることができます。事業承継という前提がないと、事業を拡大することばかりに目が行きます。自分の価値観を伝えることに意識が向かないので、伝え方の勉強もしないし、価値観の管理もできない。ですが、創業と同時に事業承継を前提にすれば、日々、どう渡せばいいかを考えながら仕事をします。
それに、自分が創った会社をM&Aしたことをお客様に伝えると、興味を持っていただけます。経営者としての判断が何だったのかを聞かれるんですよ。今は中小企業が求人募集しても採用が非常に難しい。採用できても数年で辞められたらコストに見合いません。事業がとても良いものであれば、自ら合併するのも一つの選択肢です。「理解できるけど、やる勇気が持てない」と言われますが。
神山 それはそうでしょうね。
■これからのこと
青山 これからは、創業、事業承継した体験も伝えられたらいいなと思っています。
神山 青山さんのキーワードとしては、現場、実体験などがあげられますね。
青山 私はもともとジャーナリストになりたかったんです。だから、現場に行くのは取材なんです。現場に身を置いて取材して、こういう会社だと整理して伝える。決算書のこの数字を生み出した人のことを知りたいから、現場で聞くことを大事にしていますね。
神山 これから事業を展開する上で、チャレンジしたいことはありますか。
青山 こころみさんと同じく「聞く」を極めたいと思っています。そこだけやればいいと思い始めています。人は、おそらく自分の話を聞いてもらうだけで幸せになるし、安心できると思うんです。問題解決しなくてもいいから、ただ話を聞いてもらうだけでいい。小さい子どもは純真無垢(むく)だから「聞いて、聞いて」と言えますが、大人になったら言えないですよね。でも、現場に入って、今日はあなたの話を聞きますと言うと何時間もしゃべる人がいる。
人間には、自分のことを聞いてほしいという欲求があるんでしょう。問題解決の相談かなと思っても、解決策が欲しいわけでなくて、抱えている苦しみを知ってほしい、共有してほしいだけなんですよ。われわれが受け止めることでお客様が満たされる。受け止める存在が家族以外にもいると大きな安心感がありますよね。
私は、聞くことは本当に究極だと思います。どうしたって、争いごとはなくなりません。なくなりませんが、聞くことでよりどころを提供できると思っていいます。日本では一生独身で生きる人も増えていますから、孤独を抱えながら生きる人も増えると思います。第三の家族がそんな人たちの人生を共有していきたいですね。そのスタートが聞くことです。
神山 「聴くは究極である」と。でも、なかなか伝わりませんよね。
青山 聴くというと、何も考えずに聞くと思われがちですが、われわれがいう、聴くは世界が違うんですよね。話を引き出しながら聴くことで、人が安らぎや幸せを感じることをわれわれは知っています。でも、説明だけで理解してもらうのは難しいですね。
神山 時代的には、だんだんクローズアップされてきているという感覚があります。
■AIと信頼
青山 AIが台頭し始めて、人がやることが減り始めています。その中で、人が何をしたらいいのかの答えがきっとここにあると思います。聴くが究極ってなかなか行き着かない結論ですが、何十年後かに振り返ったとき、やっぱり聴くことだったとなるとうれしいです。
神山 こころみは、AIを使ったサービスも提供しています。実はAIは聞くのが上手なんです。今までの会話ロボットはそれができなかったんですが、AIの最大の特徴は聞く能力が格段に上がったことです。相槌を打ったり、しゃべったことの中から、その人が伝えたいことを捉えて要約できるようになりました。
だけど、青山さんがおっしゃったように、全身全霊を傾けて聴くことは、人間の方が現時点ではAIよりはるかに上です。私の今のイメージとして、「聞くのが下手な人」、「ちゃんとしたAI」、「聞くのが超うまい人」という順番ですね。
青山 人工知能は聞き上手だと思います。ただ感動というレベルまではいけていないので、人間がやる余地が残っています。
神山 私は、人間がAIを使いながらより聞き上手になっていく世界を目指そうと思っています。将棋の世界でAIによって指し方が進歩しているようなイメージです。
青山 人がコンサルティングする前に、専用のAIと会話していただいて、ある程度整理が終わってから、面談をするという形でもいいと思います。人の心って、ごちゃごちゃしているので整理に時間がかかります。そこを担ってもらうのはいいと思いますね。
神山 AIは他人に秘密をしゃべらないので、その点は安心ですし、信頼できます。それはAIのメリットです。もちろん本当の信頼は人間同士に生まれるものですが。
青山 信頼の話で言うと、先日、ある銀行さんと打ち合わせをしたんです。その中で、一見、売り上げが立たず、手間がかかるように思われる、聞くという作業によって、お客様は安心して情報を渡してくれますという話をしました。いきなりセールスから始めてしまうと、警戒して情報を出したくなくなります。
私は、面談2回目までセールスはしません。まずは絶対安全だということを分かってもらうことを優先します。お客様にたくさんしゃべっていただいて、「依頼するかどうかは、ゆっくり決めてください」と言うだけです。それでお客様から依頼していただけます。遠まわりのようですが、絶対安全だって分かってもらうと受け入れてもらえます。セールスしない時間を十分にとると、お客様はおのずと選び始めるんですよね。
神山 安心したから依頼できるんでしょうね。
■根本的な問いかけができるのも第三の家族だから
青山 最近、何か大きな変革が起こり始めていると漠然と思っているんですね。バブル期であれば、うちのようなサービスはいらないと思うんです。一度どん底までおちて、全て終わった状態から、何が大切だったのかを振り返っているのが今だと思います。それで聞いてもらえるから安心できるし、信頼できる。
神山 今、日本で事業承継が盛り上がっているのは、廃業や代替わり待ったなしという状況だからですが、日本が停滞しているからでもありますよね。バブル期の事業承継であれば、深く考えずに、子どもは親の跡を継いでいると思うんです。
これから先、伸びるか分からない事業を継ぐとなれば、価値観の話に戻ってくる。子どもは、自分が事業を継ぐことがやりたいことなのかを問わなければいけない。でも、親は自分のやり方を含めて継いでほしいと思っている。そこで衝突が生まれてしまう。
青山 双方、言い分はあります。親は子どものことを思って、継いだ方がいい生活できるから、継がせようとするんですよね。それは、親子としては幸せなことかもしれませんが、社員にとっては不幸です。子どもが経営者としてやっていけるかも分かりませんし。
神山 そうですね。
青山 親子だと、その判断が曖昧でズルズルやってしまうんですよね。結果、中途半端な衝突が起きてしまう。他の専門家だと「お子さんは、経営者に向いていないんじゃないですか」とは言えないので、私が嫌われ役を買って社長に直言します。「お子さんは、経営者の素質があると思いますか」って。その問いに対して、あるというなら、根拠を聞きます。私がお子さんと話をしたり、社員の方と話をして経営者に向いていないと思えば、社長にそう伝えます。
いろんなお客様と関わってきて思うのは、中小企業の社長に一番大切なのは社員を思う愛です。これがなければ中小企業はやっていけない。だから、「私は中小企業の社長に一番必要なのは、社員を思う愛だと思っています。どう思いますか」とも聞きます。そのときのリアクションで経営者としての素質が分かりますね。あるお子さんから「愛なんて必要ですか?」と言われたことがあります。
神山 そのお子さんが会社を継いだら、どうなってしまうかイメージできてしまいますね。
青山 社員はついてこなくなりますよ。でも、そういうシンプルで根本的な問いかけをすると、社長やお子さんの経営者としての素質が分かるんです。そして、その問いかけを行うのは、第三の家族の役割かなと。
神山 そこまでやるんですね。
青山 私のその問いかけによって、「契約を切る」と言われることもありますが、私はそうしてください、と返します。全部見せてもらったうえでのコメントです。契約は切ってもらって構いません。その代わり、家族のこと、社員のことを思っての発言だから、それだけは理解してくださいと。
神山 そのポジションだからこそ、信頼が生まれるんでしょうね。
これからも第三の家族として、お客様ご家族や中小企業の事業承継に関わりつつ、ご自身の体験も伝えていかれるということで、ますますの活躍が楽しみですね。
こころみと近い価値観を持たれている青山さんとお話しできて楽しかったです。今日はありがとうございました。
プロフィール
■青山誠●あおやままこと
スリーナインコンサルティング株式会社代表取締役・プライベートコンサルタント
名古屋市出身。「お客様の人生」という時間軸をコンサルティングの切り口に法務・税務など超越したプライベートコンサルティングを確立。さまざまな人生経験で培った圧倒的な傾聴力・会話力でお客様の心をグリップ。家族カウンセリングをベースとする独自のコンサルティングスタイルは、『第三者』ではなく『第三の家族』として資産・事業承継対策に悩むお客様に寄り添い続けます。
生保営業パーソン向け営業支援・士業向けコンサルティング支援を得意とする。セミナー・研修はエンド向け・プロ向け共に分かりやすくかつ「実践できる!」と好評を得ている。
生命保険募集代理人資格(一般課程・専門課程・変額保険販売資格・外貨建保険販売資格) (社)信託協会 信託業務研修・信託関連法令研修修了。司法書士法人みつ葉グループ コンサルティング推進室室長、「再婚信託」「ジィジとバァバのお孫さん応援信託」「隠居信託」は商標登録済み。
■神山晃男●かみやま あきお
株式会社こころみ代表取締役社長
1978年長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、コンサルティング会社勤務を経て、投資ファンドのアドバンテッジパートナーズに10年間勤務。コメダ珈琲店、ウイングアーク1st等を担当。2013年「全ての孤独と孤立なくす」ことを目的に株式会社こころみを設立。一人暮らし高齢者向け会話サービス「つながりプラス」、親のための自分史作成サービス「親の雑誌」やインタビュー社史作成サービス「創業の雑誌」を提供する。
「聞き上手」を軸にした企業支援も行い、業務可視化や業務改善・組織改革支援、事業承継支援を提供中。
株式会社ヒューマンエナジー代表取締役、株式会社イノダコーヒ取締役、NPO 法人カタリバ監事、医療AI推進機構株式会社 監査役、株式会社テレノイドケア顧問。
投稿日:2024年05月23日