創業の雑誌ブログ

聞くは究極 家族と事業承継の現場に向き合う| スリーナインコンサルティング代表・青山誠さんとこころみ代表・神山晃男の対談【第3回/全5回】

スリーナインコンサルティング株式会社は『聞く』ことで、人に寄り添い、家族や事業承継のサポートを行っている会社です。
一方、こころみが提供している社史作成サービス『創業の雑誌』では創業者へインタビューを行い原稿を作成します。インタビューでは創業者の生い立ち、学生時代、起業に至った経緯などもお伺いします。創業者の生い立ちが会社の価値観にも色濃く反映されると考えているためです。創業者、会社の価値観を引き出すために、こころみは『聞く』ことに重きを置いています。『聞く』を事業のメインに据える、スリーナインコンサルティングの青山さんとこころみの神山が『聞く』について語りあいます。今回は第3回、価値観を知るために聞くです。ぜひお読みください。
※2人のプロフィールは文末をご覧ください。

目次
<聞くは究極 家族と事業承継の現場に向き合う>
1回目:血はつながらないけれど、家族と向き合う存在 公開中
2回目:家族の力を信じる 公開中
3回目:価値観を知るために聞く←今回はここ
4回目:事業承継に第三の家族が介在する意義
5回目:聞くことは共有すること

 

■感謝の質が違う


神山 第2回目で第三の家族として、実際にお客様に向き合った例をお伺いしました。具体的なお話をお伺いすると、相当タフな仕事であることが伝わってきます。どんなところにやりがいを感じていますか?

青山 司法書士をやっていた時も、お客様から感謝の言葉はいただきましたし、そこにやりがいを感じていました。でも、あのころの「ありがとうございました」と、今の現場でいただく「ありがとうございました」とは質が違うんですよね。

家族で集まる場をセットしたことや、家族が向き合うきっかけを作ってもらったことがうれしかったと感謝されることが多いです。家族会議で答えが出なかった時でさえ、お客様から感謝されることがあります。「今回はこういう形で終わったけど、家族で集まれた。元気なことが確認だけでよかった」って。
私は、専門家は解決することが仕事だと思っていたんです。でも解決すること以上に、家族は自分たちで向き合って、時間を共有することに喜びや充実感を持つんですね。だから専門家が邪魔しちゃいけないんだなって思います。

神山 解決策を出したくなりませんか?

青山 求められれば提案はします。ただ、われわれは決めません。あくまで一つのプランとして提示します。提案する場合も、家族の価値観がどこにあるかを推し量ります。この家族は税金が絶対だとか、別の価値観に重きを置いてる家族であれば、そこを優先させます。いろいろなやり方をお伝えして、家族の価値観で決めていただきますね。

神山 価値観がキーワードなんですね。

青山 最初にお客様と面談する時、過去にさかのぼってお話を伺うのは、信用を得るためでもありますが、その人の価値観を知りたいからです。皆さん一定の判断基準や、価値観を持って日々生きているんですよ。野菜一つ買うにしても、どこかへ行くにしても、意識していなくても、自分の価値観をもとに生活しています。過去をさかのぼるのは、その人が未来において、判断していくときの価値観、物差しを把握しておかないと、お付き合いできないからです。それは争族の場合も、事業承継も一緒です。その価値観、判断基準を理解せずに提案したところで、ゴールは見えません。

■価値観を受け止めることで信用される

神山 生い立ちから話を聞くのは価値観を知るためでもあるんですね。

青山 そうです。一つ例をあげますが、ある司法書士の方が家族信託のご依頼をいただいたんです。ご主人が病気を患って、頭はしっかりしてるけれどうまくしゃべることができない。奥様が心配して依頼されたそうです。ですが、家族信託を進めようとした時に、そのご主人がサインを拒否したそうなんですね。普段ほとんど言葉を発しないのに。依頼を受けた司法書士は止まった理由が分からない。それで私が同行することになりました。

事前にどんなお客様か確認したところ、そのご夫婦は三代続いた建設会社を経営者でした。建設会社の社長が体調不良で廃業したと。私は「会社を経営していた」と聞いた瞬間、理解しました。どういうことかというと、経営者は日々、小さな決断を絶えずやっています。だから、自分の頭がしっかりしているのに、奥さんが勝手に決めていくことに納得できなかったんです。もちろん、家族信託はした方がいいんですよ。でも、ご主人に一言でいいから、確認をすればよかったんです。ご主人は、何十年も会社を経営して、1日数十件も決断してきた人です。それが病気になったからといって、判断できない人に見られている。だから判断できないと思っているわけではないと伝える必要がありました。

コロナの時期だったので、面談は10分だけと言われました。その10分で伝えるフレーズは決めていました。私が「ご主人様は会社を経営されてたんですよね」と言った瞬間、目がばっと上がりました。「そうだ。建築をやっていた。RC、鉄骨、木造も戸建てもあるしビルもやった。数年前まで、現場に入っていた」とおっしゃったんです。「社長が、今こういうお姿であったとしても、数年前まで、何十人の部下を率いて、現場で指揮してやってきたんですね」と伝えました。現場で活躍しているご主人の様子を思い浮かべながら、「こんな感じだったんですね」とお話したらものすごく喜んでいただきました。

最後に「社長として、ずっと決断してきたんですね」、「家族信託はやった方がいいと思いますよね」と言うと「やっていい」と返事をもらえました。だからお客様が経験されたことを知ることが大切なんです。このご主人の場合も同じです。この方の人生は、ほぼ会社経営なんです。そこに私が触れて、忙しく働いていた姿こそ、本当の姿だと受け止める。それで、ゴーサインをいただきました。

その方は、まだ60代半ばでしたが、80代、90代のご高齢の方を前にしたら、ほとんどの人は表面しか見ません。ただのおじいちゃんおばあちゃんに見えるんです。でも、そんな方たちにも幼少期があって、青年期があったわけです。30代、40代は働き盛りだったり、子育てで忙しかったと思うんです。その方の価値観や、判断基準がどこにあるのかは過去を聞くしかない。その方の価値観が分かると、話は進んでいきます。

それが第1回目の「聞く」という話や第2回目のどうやって質問していくかにつながるんです。「聞く」ためには、しゃべってもらうための質問が必要です。だから、しゃべりたくなるような質問をぶつけます。そして、その「聞く」時間は、お客様の過去を追体験している時間でもあり、その人の価値観も知る時間でもあります。だからこそ「聞く」は丁寧にやった方がいいと思いますね。

神山 一緒に生きるレベルまで受け止められると、「この人は信用できる」と思ってもらえるということでしょうか。

青山 お客様も、血がつながってない第三者が深く向き合って、「日々一緒に生きていきましょう」、なんて言われたことないと思うんです。お客様から「プライベートコンサルタントって本当にいいよね」っておっしゃっていただけるのは、人生を一緒に振り返りながら、思い出を共有してくれる人だからだと思います。その方の生い立ちだったり、過去のいろんな思い出を共有できる人がいることが安心につながるんでしょうね。

思い出を共有するので、その方が亡くなってしまっても、その方を語れる存在になり得るのが第三の家族だなとも思っています。

>>4回目:事業承継に第三の家族が介在する意義に続く

プロフィール

■青山誠●あおやままこと

スリーナインコンサルティング株式会社代表取締役・プライベートコンサルタント
名古屋市出身。「お客様の人生」という時間軸をコンサルティングの切り口に法務・税務など超越したプライベートコンサルティングを確立。さまざまな人生経験で培った圧倒的な傾聴力・会話力でお客様の心をグリップ。家族カウンセリングをベースとする独自のコンサルティングスタイルは、『第三者』ではなく『第三の家族』として資産・事業承継対策に悩むお客様に寄り添い続けます。
生保営業パーソン向け営業支援・士業向けコンサルティング支援を得意とする。セミナー・研修はエンド向け・プロ向け共に分かりやすくかつ「実践できる!」と好評を得ている。
生命保険募集代理人資格(一般課程・専門課程・変額保険販売資格・外貨建保険販売資格) (社)信託協会 信託業務研修・信託関連法令研修修了。司法書士法人みつ葉グループ コンサルティング推進室室長、「再婚信託」「ジィジとバァバのお孫さん応援信託」「隠居信託」は商標登録済み。

■神山晃男●かみやま あきお

株式会社こころみ代表取締役社長
1978年長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、コンサルティング会社勤務を経て、投資ファンドのアドバンテッジパートナーズに10年間勤務。コメダ珈琲店、ウイングアーク1st等を担当。2013年「全ての孤独と孤立なくす」ことを目的に株式会社こころみを設立。一人暮らし高齢者向け会話サービス「つながりプラス」、親のための自分史作成サービス「親の雑誌」やインタビュー社史作成サービス「創業の雑誌」を提供する。
「聞き上手」を軸にした企業支援も行い、業務可視化や業務改善・組織改革支援、事業承継支援を提供中。
株式会社ヒューマンエナジー代表取締役、株式会社イノダコーヒ取締役、NPO 法人カタリバ監事、医療AI推進機構株式会社 監査役、株式会社テレノイドケア顧問。

投稿日:2024年04月30日