創業の雑誌ブログ

聞くは究極 家族と事業承継の現場に向き合う| スリーナインコンサルティング代表・青山誠さんとこころみ代表・神山晃男の対談【第2回/全5回】

スリーナインコンサルティング株式会社は『聞く』ことで、人に寄り添い、家族や事業承継のサポートを行っている会社です。
一方、こころみが提供している社史作成サービス『創業の雑誌』では創業者へインタビューを行い原稿を作成します。インタビューでは創業者の生い立ち、学生時代、起業に至った経緯などもお伺いします。創業者の生い立ちが会社の価値観にも色濃く反映されると考えているためです。創業者、会社の価値観を引き出すために、こころみは『聞く』ことに重きを置いています。『聞く』を事業のメインに据える、スリーナインコンサルティングの青山さんとこころみの神山が『聞く』について語りあいます。今回は第1回、血はつながらないけれど、家族と向き合う存在です。ぜひお読みください。
※2人のプロフィールは文末をご覧ください。

目次
<聞くは究極 家族と事業承継の現場に向き合う>
1回目:血はつながらないけれど、家族と向き合う存在 公開中
2回目:家族の力を信じる←今回はここ
3回目:価値観を知るために聞く
4回目:事業承継に第三の家族が介在する意義
5回目:聞くことは共有すること

 

■生い立ちを聞くことは外せない


神山 第1回目は、青山さんがスリーナインコンサルティングを創業した経緯や、お客様にインタビューするのは、お客様の信用と信頼を得るため、お客様の価値観を知るためということをお伺いしました。『創業の雑誌』でも、企業の歴史を振り返る時に、創業者の生い立ちから聞きます。創業者の親御さんのことや、どこで生まれたかから聞くんですね。生い立ちが、起業につながったり、事業の核になっていることが多いんです。だから、私たちも生い立ちは外せないものだと感じています。青山さんが話を聞く時に、意識されていることはありますか?

青山 プライベートコンサルタント養成講座というのを行っているんですが、『8つの力』というのを掲げています。その中の最初に傾聴力を入れています。まずここから始めましょうとお伝えします。傾聴というのは、耳を傾けて聞くことですが、とても難しいことです。初対面の方に耳を傾けたからといって、しゃべってもらえるわけないですよね。結局、傾聴力って、しゃべってもらう力なんですよね。しゃべってもらわなければ、聞くことはできない。

では、どうしたらしゃべってもらうことができるのか。しゃべってもらうには質問力が必要になってきます。質問力とはその人が思わずしゃべりたくなってしまう状態にすることです。質問力を養うためには、まず、その人を観察します。初対面で自己紹介をしながら、相手の雰囲気、家、いろいろなものから情報収集します。その情報の中から、この人の価値観が反映されていそうなものや、こだわりを持っていそうなところに触れるんです。例えば、玄関先には、意図しておいているものが結構あるんですよね。「玄関先においてあるものはなんですか」って軽く触れてみて、反応があれば深掘りします。その方が大切にしていそうなものを探して、パーソナルな部分につながりそうな話に展開したら、そこフォーカスするんですよ。

神山 周辺から情報を得ることが重要なんですね。

青山 重要だと思います。周辺の事柄から聞いていくと、話をしやすいようです。

神山 ご自宅に行くことは大事ですか?

青山 やっぱり現場ですね。

神山 現場という感覚なんですね。

青山 われわれは一緒に生きるつもりなので、お客様が普段どういった生活をしているかに興味があります。経営者であれば会社に行ってみたくなりますし、普段は自宅にいることが多いのであれば、ご自宅に伺います。この方はこういうところで生活しているんだと実感したいので、現場に行ってお話をするのが大原則ですね。

■実際のお客様


神山 印象的だったお客様を教えてください。

青山 例えば、ある地主様で10億円の資産を持っているのに、子どもたちは一切寄り付かないという家がありました。

神山 そんなお宅があったんですね。

青山 そうです。普通であれば、子どもが世話をしそうですが、誰もやらないんです。なぜなら常にお金を介在させて子どもを動かそうとする親御さんだったからです。お子さんたちはそれが嫌で連絡しなくなっていた。親御さんは一人暮らしで年も取ったので、これからのことが心配になる。子どもたちに助けてほしいけれど、自分が原因で、子どもたちは寄り付かない。この親子の溝をどうやって縮めるか、第三の家族として親御さんの話を聞いたり、お子さんたちと個別面談を行いました。

完全に溝を埋めることはできませんが、われわれが関わることによって新しい家族の向き合い方というのを試みたんです。結果、しこりは消えませんが、お互いにこんな人だったというのを再確認するだけで納得できるのだと思いました。

神山 うちの親はお金で言うことを聞かせようとする人だった、ということを確認するだけでも納得できるんですか?

青山 そうなんですよ。そういった家族の領域には、今まで専門家は立ち入れなかったんです。でもわれわれが第三の家族というスタンスで話を聞いてみたら、実は大変だった。お伺いすると「誰かに間に入ってもらおうと思ってたんですよ」って最初に言われるんですよ。

その言葉を聞くたびに、話し合えばいいのにと思うんですけど、それができないんですね。先ほどお話しした資産が10億円あった地主さんもそうですし、他の案件もほぼ一緒ですね。親子の勘違い、思い込みなどからしこりが残ってしまう。話をすれば済むことでも、時間がたつことで、どうしたらいいか分からなくなるんでしょうね。

神山 親御さん側のコンサルタントとして入ると、お子さんたちから反発を受けそうですね。

青山 毎回、アウェーからのスタートです。地主さんの時は、私がお子さんたちに電話をましたが、最初は警戒されまました。ですが10年間連絡を取り合っていなくても、親子という認識はあるんですよね。法律でつながっているので、無視はできないですし。

そろそろ、うちの親もいい年になってきたし、相続もぼちぼちだなって考えている。かといって自分からは連絡はしない。そのタイミングで私が電話をすると、 当然いい印象は持たれません。そこはざっくばらんに「お父様が今後のことを心配されています。一度お子さんと話をする場を作りたいとおっしゃっています。過去にいろいろあったと伺いしていますが、お父様はお子さんたちの意見を聞きたいと思ってらっしゃいます。お父様と会うかどうかはいったんおいておいて、私とお話しませんか。会うかどうかはあなたが決めてください」とお伝えするんです。選択権はあなたにありますとお伝えすると、大体皆さん会っていただけます。

神山 それなら「話だけでも聞いてみようか」と思いますね。

青山 今の実家の現状を私を介して知ることができるので、「取りあえず会います」って言われますね。われわれ第三の家族は、お親さんと話をし、お子さんと話をし、最後に家族が集まる環境を用意します。家族で話をする場を設け、ファシリテーターとして参加します。

神山 地主さんのケースも、最後は家族で集まったんですか。

青山 そうです。家族会議をやりましたが紛糾しました。

神山 どういうことで紛糾するんですか?

青山 他の家族も一緒ですけど、久しぶりに会うと、最初は皆さん我慢しています。でも、いろんな感情を持って臨まれるので、誰かが口火を切ると止まらなくなるんです。はたから見ていると、すさまじい罵声の浴びせ合いですよ。でも、終わりはさらっとしています。やはり、怒ると疲れますし、お互い大人なので途中からどうやって収めようかって考えて妥協案を出し始めるんですね。

絶対に切れることはない関係だからこそ、お互い諦めて受け入れるんでしょうね。家族の力は偉大です。だから大げんかしようが、罵声を浴びせようが、私は見守ることに徹します。

神山 見守るだけですか。

青山 「それは税務的な判断を踏まえた方がいいですよ」とか、「こういう法律判断がありますよ」と声を掛けることはありますが、それくらいです。見ていると、自然とまとまるんです。

神山 何時間ぐらい話をするんですか?

青山 お客様によりますけど、2~3時間程度です。

神山 それだけしゃべれば疲れますね。

青山 疲れてくると、どうやって納めようと考えだすので、家族の方向性が見えてくるんです。ですから、私は「プライベートコンサルタントはプランナーではなくてファシリテーターだ」と言っています。

神山 ファシリテーターとして気を付けていることはなんでしょう?

青山 家族の力を信じることです。税理士さんや弁護士さんなどの専門家だと、答えを作って提案しようとするんですよ。それはプランナーですよね。もちろん専門家ですから、それが職責です。でも争族の話って、過去から変わっていないんです。私は「専門家が携わって、いろんなアドバイスをしてくれるんだから、親も引き継ぐ世代も経験値が上がっていくはずなのでは」と思ったんですよ。でも、そうはなっていない。なぜかと考えた時に、専門家が決めてきたからだと気づきました。なぜそうするかを家族で考える過程がないまま、専門家が答えを出してしまっている。お客さんも「先生が言うならそれがベスト」と考えることをしません。

多少もめても、家族で決めていく経験を積ませることが、家族にとっていいことだと思ったんですよね。だから私たちは、ファシリテーターとして環境を整備するだけです。もちろん、具体的な話をする時は情報提供します。税金や、法律の観点を踏まえ情報提供しながら、「最後はどうされますか」、「少なくとも今の話であれば、A案、B案、C案があります」というふうにします。

家族全員で決めたゴールは、全員で決めたので守らざるを得ないんです。専門家が押し付けたプランは後から言い逃れができるんですよね。「俺はあの時反対だったんだ」って。ですから、家族のことは家族で決めてもらうのがいいんですよ。

>>3回目:価値観を知るために聞くに続く

プロフィール

■青山誠●あおやままこと

スリーナインコンサルティング株式会社代表取締役・プライベートコンサルタント
名古屋市出身。「お客様の人生」という時間軸をコンサルティングの切り口に法務・税務など超越したプライベートコンサルティングを確立。さまざまな人生経験で培った圧倒的な傾聴力・会話力でお客様の心をグリップ。家族カウンセリングをベースとする独自のコンサルティングスタイルは、『第三者』ではなく『第三の家族』として資産・事業承継対策に悩むお客様に寄り添い続けます。
生保営業パーソン向け営業支援・士業向けコンサルティング支援を得意とする。セミナー・研修はエンド向け・プロ向け共に分かりやすくかつ「実践できる!」と好評を得ている。
生命保険募集代理人資格(一般課程・専門課程・変額保険販売資格・外貨建保険販売資格) (社)信託協会 信託業務研修・信託関連法令研修修了。司法書士法人みつ葉グループ コンサルティング推進室室長、「再婚信託」「ジィジとバァバのお孫さん応援信託」「隠居信託」は商標登録済み。

■神山晃男●かみやま あきお

株式会社こころみ代表取締役社長
1978年長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、コンサルティング会社勤務を経て、投資ファンドのアドバンテッジパートナーズに10年間勤務。コメダ珈琲店、ウイングアーク1st等を担当。2013年「全ての孤独と孤立なくす」ことを目的に株式会社こころみを設立。一人暮らし高齢者向け会話サービス「つながりプラス」、親のための自分史作成サービス「親の雑誌」やインタビュー社史作成サービス「創業の雑誌」を提供する。
「聞き上手」を軸にした企業支援も行い、業務可視化や業務改善・組織改革支援、事業承継支援を提供中。
株式会社ヒューマンエナジー代表取締役、株式会社イノダコーヒ取締役、NPO 法人カタリバ監事、医療AI推進機構株式会社 監査役、株式会社テレノイドケア顧問。

投稿日:2024年04月15日