創業の雑誌ブログ

教えてください!家族承継って何ですか?|「家族承継」の専門家に聞いてみました(第4回/全5回)

株式会社こころみは、株式会社Kamakura Kazokuと提携させていただいております。
株式会社Kamakura Kazokuは、家族視点の事業承継「家族承継」専門の会社です。対話を通じて経営者と経営者家族をつなぎ、本音で話せるような場を提供し、創業者の志を次世代に継承させるサポートを行っています。
こころみが提供しているインタビュー社史作成サービス『創業の雑誌』が、家族承継を行う上で大切なツールとなるということから提携に至りました。そんな「家族承継」の専門家である株式会社Kamakura Kazokuの関尚子さん、関清一郎さんに事業承継のひとつである「家族承継」、『創業の雑誌』が「家族承継」に果たせる役割などをお伺いしてみました。

<目次>教えてください!家族承継って何ですか?|「家族承継」の専門家に聞いてみました
第1回:ファミリービジネスには対話が足りていない?
第2回:原体験を言葉として残せる社史作成サービス『創業の雑誌』
第3回:ファミリーチームとビジネスチームをつなぐ家族憲章
第4回:事業承継は、早ければ早いほどいい(←今回はココ)
第5回:Kamakura Kazokuが目指すもの

――事業承継は、どれくらいの期間をかけるものなのでしょうか?

尚子 一般的に事業承継には6~7年必要だと言われています。けれど私は、早ければ早いほどいいと思います。覚悟も生まれますし、経営者がお元気な間に後継者が自由にトライアル&エラーができるので、すごくいいのですよ。

清一郎 親族承継の場合、平均6~7年はかかると言われていますが、M&A仲介会社でM&Aを行う場合、平均期間は10カ月、ネットの仲介会社だと1カ月かからないというところもあります。M&Aをすることを目的に作った会社なら、それでもいいのですよ。おにぎり屋さんを作って、それを食品会社さんに売ろうと決めて始めたのであれば、短くてもいいと思います。

でも、代々続いてきたような会社を1年程度の準備期間で手放してしまうと、だいたいトラブルが起きますね。関係者とちゃんと話ができていませんから。家族だったり地域だったり、あたたかさを大事にする関係者から、「急にМ&Aとは、どういうことですか?」と言われることがよくあります。

歴史がある会社の場合、事業承継が終わってから「どうしてこういう意思決定をしたんだ」と関係者に言われることも多いです。だから、いずれにしても、事業承継を考えるタイミングというのは早ければ早い方がいいですね。ちなみに、M&Aでうまくいっている場合を見てみると3年くらいかけていらっしゃいます。

――よりよい事業承継のために必要なこととはなんでしょう?

尚子 事業承継には大きく2つあります。親族承継と第三者承継です。第三者承継の中に、社員承継とM&Aがあります。今までは、事業の継続を判断基準にして、親族の中に適任者がいなければ、社員、社員の中に適任者がいなければ第三者というふうに考えるものだったと思います。でも、今までの観点だと、経営と株主に集中していて、家族が置き去りになってしまっているのですよ。他に選択肢がないからM&Aにしたけれども、後から家族の中から自分が継ぎたかったと声があがるということがあるのです。

清一郎 後からっていうのは、多いですね。

尚子 そういったところの情報の偏りをなくすと、よりよい承継が生まれてくるかなと思いますね。

清一郎 自社株式における今の事業承継は、経営の承継と財産の承継の2つの面で考える必要があります。けれど、事業承継の経験が少ない顧問税理士さんの場合、「事業承継は経営の承継だけだ」って言われたりするんですね。確かに狭い意味ではそうなのですが、これは事業承継ver1.0と言えると思います。

事業承継ver2.0になると、経営承継と財産承継は表裏一体だという考え方をします。スリーサークルでいうところの、ビジネスチームの承継が経営承継。オーナーシップの承継が財産承継、つまり株式の承継となります。生前に、この株を関係者に贈与すると相続税が下がります。それに株式って、議決権を持っていますよね。だから、「事業の承継とともに、株式という財産の承継も考えましょう」というのが事業承継Ver2.0です。

ここに家族の承継をちゃんと考えていこうというのが事業承継Ver3.0。私たちが考える最新バージョンですね。 もっというと、このスリーサークルの中心に位置する理念の承継を考えていくべきと考えています。議決権や財産権よりも、本当に大切なものは目には見えない創業者の思いだったりするのですよ。でもそういう、創業者の思いを受け継がない後継者が親から事業を受け継ぎ、何億という資産を受け継ぎ、ついでに高級外車や億ションも受け継いでしまうことがある。そうするとたいてい、10年後20年後に会社も家族もバラバラになるケースが少なくないのです。

尚子 よく3代目が会社を潰すっていわれるじゃないですか。それにも理由があります。1代目は、試行錯誤しながら会社を大きくして、2代目は先代の大変な姿を見ている。でも3代目は、創業者の苦労や大変な姿が見えにくい。だから何のためにやっているのかがわからない。さらにそこに物ばかりが与えられる。たくさんの物に囲まれて、それが普通だと思ってしまう。なにかあったとき、そこに至る過程や苦労、思いや理念みたいなものがないから、我欲に負けてしまいます。「足るを知る」謙虚さと創業者の理念を紡いでいくのに生かせるのが『創業の雑誌』だと思います。

清一郎 さらにいえば、理念や思いというのは、言葉だけでは上滑りしてしまいます。それに紐づく原体験というのが創業者や創業メンバーには絶対にあるはずなので、それも一緒に伝えていきたいのです。

――言葉の背景がないと伝わりにくいということでしょうか?

清一郎 そうです。もっと言うと、間違った解釈になってしまうのです。例えば『家族に幸せを』という言葉を創業者が残したとする。そうすると高級料理を食べさせることが幸せと解釈されてしまう場合があります。

尚子 創業者が考える幸せというのはそういうものではないと思います。本当に大切なのは、お祖父ちゃんお祖母ちゃんがどんな人間で、どんな思いでこの家族を守ろうとしてきたのかを伝えることです。自分と家族と、社員を幸せにするために歯を食いしばって頑張ってきた原体験がある。そのお祖父ちゃんお祖母ちゃんのお金を無尽蔵に使うことって、ちゃんと次世代に伝わっていれば、できないですよね?

清一郎 先祖への感謝があれば、「足るを知る」人間になると思います。でもやはり今の現場では伝わっていないケースがすごく多いですね。

尚子 それでは経営者も疲弊してしまいます。

清一郎 経営者が家族にそんなに無駄遣いをするなと言えればいいですけどね。でも言えたとしても、不満がでてくるから、「もういいや経費で払うから」となってしまう。ファミリー企業が落ちていく一因に、この公私混同もあります。会社のお金を、ファミリーのお財布のように思ってしまって歯止めが利かなくなることもあるのですね。

尚子 「無駄遣いをしないでほしい」とは直接言いにくいことなのです。例えば、かわいい孫にはなんでも買ってあげたいし、美味しいものも食べてもらいたい、という気持ちもありますから。だから、第三者が言ってあげるといいと思うのです。それは他の家族でもいいし、会社の幹部でもいい。「社長がこういう思いで一生懸命働いて得たお金なのだから、大事に使ってね」って。誰か他のところから言ってもらうことが、すごく大事だと思います。そして私たちがそういう立場であれたらいいな、というのは強く思いますね。

――事業承継でボトルネックなどはあるのでしょうか?

清一郎 事業承継というのは、総合格闘技にも喩えられるほど複雑です。普通の事業承継だけを考えるのであれば、さほど難しくはないかもしれません。会社の事業を誰が引き継いで、どう経営戦略を立てるかというだけなので。そこに財産承継が入ってくると、今度は相続税とか法人税とか、税金の知識が必要になってきます。さらに家族承継まで入ってくると、ファシリテーション、コーチング、そういう技術も必要になってきます。ですから、僕たちが重視している『対話』と『学び』と『仲間』の中でも、『学び』がとても深いのですよね。

尚子 経営者自身もそうですし、家族も学ばなきゃいけない。これからの事業承継に対しては、家族も学ぶ必要が出てくると思いますね。見ているだけでは不十分で、全員参加の時代が来ると思います。

清一郎 社長だけじゃなくて、家族も、次世代の後継者も学ばないといけない。もちろん、会社の経営幹部も学ばないといけません。

尚子 あと、事業承継ってどうしても緊急性が低いって言われるのですよ。重要性は高いけど緊急性は低いのですよね。

清一郎 どうしても緊急性が高い仕事を優先してしまいますから、なかなか時間が取りづらい。追われて、追われて急に創業者が体調を崩されて、事業承継の準備を全くしていないというのが課題かなって思います。

尚子 本当に、早ければ早いほどいいと思います。「創業の雑誌」を作るのも、事業承継をするのも。

第5回に続く(6月7日配信予定)

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■プロフィール

関尚子(せきなおこ:株式会社kamakura kazoku代表取締役CEO

神奈川県出身。2004年明治大学政治経済学部卒業。同年横浜銀行入行。 綱島、日吉、本店営業部などに所属し、家族向け相談業務に10年携わる。 育児3人介護2人に向き合うため、退職。家族か仕事ではなく、すべてを一体化できるような生き方をしたい、 また、元経営者の一人娘としての原体験を形にしたいと家族で対話を重ね、起業を決意。神奈川県の起業家創出拠点HATSU鎌倉の起業支援プログラムに採択され、2020年12月夫婦で起業。

 

関清一郎(せきせいいちろう):株式会社kamakura kazoku代表取締役CHO

広島県出身。2006年横浜国立大学経営学部卒業。同年横浜銀行入行。税理士法人山田&パートナーズ出向を経て、2016年青山財産ネットワークスに入社。日本M&Aセンターとの合弁会社事業承継ナビゲーターにて、事業承継後の経営者・家族向け相談業務の責任者を務める。
一般社団法人金融財政事情研究会が、 株式会社日本M&Aセンターおよび株式会社きんざいと創設した認定制度「事業承継シニアエキスパート認定資格」の講師やファシリテーターとしても活躍する。

投稿日:2023年05月31日